第3回 経営計画策定の着眼点
目次
はじめに
この度の新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、日常生活や事業活動に影響を受けていらっしゃる皆様に心よりお見舞い申し上げます。
前回は『必要利益』の算定について記載しましたが、今回はその『必要利益』を目標値とした場合の経営計画の策定方法の着眼点について記載していきます。
経営計画は複数あっても問題ないものと考えております。
- 最低限クリアしなければならない経営計画
- 現状よりも少し上を目指すための、ちょっと頑張らないと達成できない水準の経営計画
- 経営者の夢を実現する積極的な経営計画
本コラムで紹介する『必要利益』を目標値とした経営計画策定の考え方は、「最低限クリアしなければならない経営計画」の位置づけとなり、資金ショートを起こさないための目安数値と捉えていただけたら良いのではないかと思います。
ステップ1 必要売上高を把握しましょう
まずは前回までのおさらいです。要点は以下の通りです。
- 自社の健康診断を行い現状を知る
- 自社の『必要利益』を把握する
自社の健康診断については、簡単な表を作成することにより行いました。>>健康診断シート
必要利益については、以下の算式により求めます。
『必要利益』=(借入金元本返済額-減価償却費)÷ 0.7
ここまで把握出来たら『必要利益』を確保するための必要売上高を計算してみましょう。以下の算式により求めます。
【必要売上高の把握】
必要売上高=(必要利益+固定費(販管費))÷粗利率(限界利益率)
計算できたでしょうか?
計算した必要売上高が、半年あれば実現できそうな金額になるケースや、どう頑張っても実現不可能な途方もない金額になるケースなど様々な計算結果になるはずです。
必要売上高が半年あれば実現できそうな金額になるケースでは、一般的には現状の経営状態を維持することができれば、キャッシュは増えていきます。
売上高・粗利率・必要最低限の固定費は、現状維持の経営計画とし、以下のような事項を検討しても良いでしょう。
- コロナ融資の返済開始に備えて、内部留保として手元にお金を残しておく
- 決算賞与等として従業員さんへ還元することで、社内のモチベーションを高める
- 設備投資等により事業拡大を狙う
- 役員報酬を増額し、個人資金として貯蓄しておく等
反対に、必要売上高が実現不可能な金額となった場合はどうでしょうか。次なる打ち手の検討機会到来です 。
「売上増加」はもちろんのこと、「粗利率」「固定費」を見直すことにより、必要売上高を実現可能な水準まで引き下げるための行動計画の策定が必要となります。
損益計画における、必要利益確保に向けた施策の着眼点は以下の三つしかないことはすでにご案内の通りです。
- 売上を増やす
- 粗利率(限界利益率)を改善する
- 固定費(販管費)を削減する
もう一点あげるとすれば、借入条件見直し等による必要利益額の引き下げという方法もありますが、こちらについてはまた別途記載します。
これらをすべて加味して計算した数値計画が『最低限クリアすべき経営計画』となります。
ステップ2 売上を増やすための着眼点
売上につきましては、以下の算式で表すことができます。
売上高 = 顧客数 ✖ 顧客単価
1.顧客数アップのための着眼点
◆既存顧客の維持
「こまめな営業」「よりよい接客」「迅速な対応」「既存顧客のニーズの調査」等により、既存顧客のリピート率を維持する工夫が必要となります。
マーケティングの世界には「既存顧客にもう一回買い物してもらうためにかかる販促コストは、新規顧客を1人獲得するためにかかる販促コストの5分の1である」という法則があるそうです
この法則に基づくと、既存顧客を大切にするということは、売上増加とコスト削減両方に繋がるということになりますね。
◆新規顧客の獲得
「販売エリアの拡大」「販売方法の見直し」「新規顧客キャンペーン等の施策」「拠点営業」等により、新規顧客をどのように獲得していくかの検討が必要となります。
新規顧客と言っても、「従来と同じターゲット層の深掘り」と「全く新しいターゲット層の開拓」に分かれます。まずは、ターゲット層を明確にしたうえで、対策を検討する必要があります。
2.顧客単価アップのための着眼点
◆商品・製品
「新商品の開発」「技術力による差別化」「提案営業」等、顧客のニーズをくみ取り、現在市場にない商品やサービスを提供することで価格的優位性を保つ工夫が必要になります。
差別化に成功したあかつきには、商品やサービスの単価アップにつながっていくものと思います。
◆価格・サービス
「安易な値引きキャンペーンの抑制」「無料サービスの見直し」「高付加価値商品の開発」等、実質的には値上げをしなくても、値引を減らすことで、顧客単価はアップしていくものと思います。
また、顧客単価については、商品単価を上げる方法以外に、購買商品数や購買商品種類数を増やすことも有効です。「セット商品の開発」「関連商品の推奨」も一つの有効な手段かと思います。
先日、仕事用の靴を買いに行きましたが、当初予定していなかった靴磨きセットも推奨され一緒に購入しました。ファミレス等で、食事と一緒にドリンクやデザートをお勧めされることが多いかと思います。これらが「関連商品推奨」のいいお手本ですね。
以上、売上増加策の一例のご紹介でした。施策をいくつも同時に行うことは現実的ではないものと思います。
まずは、これ!と絞って、
- どのようなことをして→具体的な行動計画
- いくら売上増加を見込む→具体的な数値計画
を立案してみましょう。従業員さんが実際に動ける程度に行動計画を具体化したほうが実現可能性が高くなるものと思います。
売上増加金額が算定できましたら、現状の売上に加算してみてください。これが売上目標値となります。もちろん、現状の売上をキープすることが大前提となります。
ステップ3 粗利率を改善するための着眼点
粗利率とは、下記算式により計算します。同業他社の平均値と比較したときに自社の粗利率の方が低いようであれば、改善の余地が残っております。
同業他社の粗利率平均値につきましては、弊社へお問い合わせください。
粗利率改善には、以下のような着眼点があります。
粗利率(%) = 粗利(売上総利益) ÷ 売上高 ✖ 100
粗利率を改善するためには「売上の側面」「仕入の側面」の2パータンを検討しましょう。
1.売上の側面
◆売上単価のアップ
こちらにつきましては売上増加策に記載した「差別化・高付加価値化」「安易な値引の抑制」と同様です。
売上金額を上げるのではなく、売上「単価」を上げる点に注意しましょう。
2.仕入の側面
◆仕入単価の見直し
仕入単価の見直しについてはシンプルかと思います。同じ材料を仕入れるのであれば、少しでも安い業者から仕入れるのは当然ですね。
まったく同じ材料の仕入値が仕入業者間で20%も違うことが判明した!というケースも聞いたことがあります。
長年取引が続いているような業者さんとの関係性もあるかとは思いますが、業績改善に取り組むことは、新しい「仕入先」を探してみる良い機会かもしれませんね。
◆不良在庫の削減
不良在庫や材料ロスを減らすことでも粗利率は改善します。
まず、不良在庫については仕入管理を行うことが重要です。発注者が複数人いる場合には、全ての仕入を把握する管理者を設定し「発注量の管理」をするようにしましょう。
また、仕入管理と同様に在庫管理も重要です。「材料使用料の管理」「消費期限があるものについては先入先出しの徹底」「倉庫内の整理整頓」を行いましょう。
個人的には、まずは倉庫内の在庫の整理整頓が必要であるものと考えております。常に整理整頓を心掛け、どこに何がどれだけ残っているのかを常に把握することができる体制を作れたならば、それだけで粗利率は2%~5%改善するでしょう。
ずさんな在庫管理は、粗利益率の低下につながります。粗利率改善のポイントは、在庫管理にあり!です。
ステップ4 固定費を削減するための着眼点
固定費とは、売上が0円だとしても支払わなければいけない経費のことをいい、家賃や人件費等が固定費に該当します。
自社の経営に無駄な経費が掛かっていないかどうか、一度すべての固定費を洗い出してみてください。総勘定元帳を眺めてみると、自社にはどのような経費が掛かっているのか細かく把握することができます。
◆前年比で上回っている経費の削減
一番手っ取り早いのは、前年と比較して増加した経費の削減です。前年1,000円でやれているんだから、今年も1,000円でやりましょう!という発想ですね。前年から増加している経費の増加原因を確認することから始めましょう。
その中でも「交通費」「交際費」「広告宣伝費」は、それぞれの頭文字をとって会計上の3Kと呼ばれております。一般的には削減しやすい経費と言われております。これらの3Kについては、売上にどれだけ効果を発揮しているのか検証してみる必要がありますね。
業績改善の場面においては、この経費を使ったら今後どれだけ自社の売上にプラスになるかを意識して、経費を使っていくことが重要ではないかと考えております。
◆不要資産の売却
不要資産のうちうり、一番わかりやすいのは遊休不動産でしょうか。使っていない資産があると、売上は上がらないのに毎年固定資産税が発生します。
また、金融機関から借り入れをしている企業において、遊休資産を有していることはその資産には支払利息という経費ががかかっていることになります。
余分な資産は売却し、金融債務を圧縮するだけで、これらの経費を削減することが可能となります。
◆過剰棚卸資産の圧縮
粗利率改善の部分でも出てきた棚卸資産の着眼点です。棚卸資産いわゆる在庫には「保管料」が掛かるのはおわかりかと思います。
自社で倉庫を有しているような場合には、その倉庫の維持経費(固定資産税・光熱費等)や倉庫を整理するための人件費がかかっていますね。
また、遊休資産と同様に、金融債務を有する企業においては、棚卸資産には支払利息がかかっております。
もちろん販売する商品がなければ商売は成り立ちませんから、一定の在庫保有は必要です。売りたいときに商品が手元になければお話になりません。
ただ、半年間動かないような在庫や今後売れる見込みのない陳腐化した商品等は、保有しているだけで上記のような経費負担が生じています。このような過剰在庫は早急に処理しましょう!
過剰在庫圧縮の一歩目は、自社の適正な在庫量を把握するこです。そのためにも、決算時だけでなく毎月末に棚卸をするという習慣を身につけましょう!
◆人件費の見直し
①役員報酬の削減
同族会社においてはあまり意識するケースは無いですが、会社の役員には経営責任が課されています。
会社法423条1項
「役員等は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
経営者としての任務を怠って会社の業績悪化を招いたのであれば、その責任は取らなければなりませんね。コロナのように、致し方ないケースはありますが、会社がもうかっているときはたくさん役員報酬をもらう!その分、会社がきついときにはがっつり役員報酬を下げる!といった社風を作り上げましょう。
②従業員給与の削減
こちらは、にっちもさっちもいかなくなった場合の最終手段です。基本的には弊社からアドバイスするケースはありません。本コラムでは割愛させていただきます。
まとめ
今回のコラムにおいては、黒字化へ向けての業績改善の数値的な着眼点について記載しました。
利益だけを追い求めて商品や提供サービスの品質お落ちてしまっては元も子もありませんが、目標とする数値を把握し、それに向かって利益を追求することは非常に重要です。
ただし、やみくもに売上だけ増やしても、粗利率が低下したり固定費が増加したりするならば、利益が増えないことはご理解いただけたと思います。
- 『必要売上』を確認
- 売上増加のための行動計画を立案
- 『粗利率の改善』『固定費の削減』
このような流れで考えていただければよいかと思います。
- 売上の目標値
- 粗利率の目標値
- 固定費の目標値
この3つが決まれば、経営計画は完成です!
明らかな異常値が算出された場合には弊社にお問い合わせください。もう少し抜本的な改善計画の策定が必要かもしれません。
次回は、計画策定から離れて、具体的な業種を上げて財務分析してみたいと思います。
会計情報は経営意思決定のためにある!
TKC継続MASシステムとは
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