介護事業者の財務分析

目次

 

はじめに

 

この度の新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、日常生活や事業活動に影響を受けていらっしゃる皆様に心よりお見舞い申し上げます。

今回は、業績改善の流れから、厚生労働省より同業他社資料が公表されており、比較・分析が行いやすい介護事業者の財務分析をしてみます。

 

介護事業者の現状

 

まずは、厚生労働省より公表されている「令和元年度介護事業経営概況調査結果の概要」より介護事業者の現状を確認していきます。

厚生労働省資料では、介護サービス毎に数値確認が可能ですが、本コラムにおいては下記3分類の数値のみ確認します。

 

  • 施設サービス
  • 居宅サービス
  • 地域密着型サービス

 

◆各介護サービスにおける収支差率の平均値

収支差率とは「税引前当期純利益÷売上高」で求められた数値です。

①施設サービスの平均値

  • 平成29年度決算→3.5%
  • 平成30年度決算→3.1%
  • 対29年度増減 →△0.4%

②居宅サービス

  • 平成29年度決算→4.1%
  • 平成30年度決算→3.1%
  • 対29年度増減 →△1.0%

③地域密着型サービス

  • 平成29年度決算→4.0%
  • 平成30年度決算→4.6%
  • 対29年度増減 →0.5%

④全サービス平均

  • 平成29年度決算→3.5%
  • 平成30年度決算→2.8%
  • 対29年度増減 →△0.7%

平成30年度における全サービス平均での収支差率は、売上高に対して2.8%の税引前当期利益を計上しております。利益率はそれほど高くないものの、業界としては黒字計上です。

ただし、前年と比較した場合に収支差率が悪化傾向にある介護サービスも多く、将来に向けては注意が必要かもしれません。

 

◆各介護サービスにおける給与費割合

これは「給与費÷売上高」で求められた数値であり、売上に占める給与費の割合を示しております。

①施設サービスの平均値

  • 平成29年度決算→60.9%
  • 平成30年度決算→61.3%
  • 対29年度増減 →0.4%

②居宅サービス

  • 平成29年度決算→64.2%
  • 平成30年度決算→64.9%
  • 対29年度増減 →0.7%

③地域密着型サービス

  • 平成29年度決算→67.4%
  • 平成30年度決算→67.3%
  • 対29年度増減 →△0.1%

給与費割合については、全サービス平均が公表されておりませんが、売上に占める給与費の割合は全サービスを通してに増加傾向にあるようです。全国的な給与水準(最低賃金)の上昇の影響かもしれませんね。

 

◆介護施設数・事業所数の推移

平成30年介護サービス施設・事業所調査の概況をご確認ください。

 

上記でご紹介した二つの資料は、自社の財務分析を行う上で、同業他社数値として非常に有用です。毎年度確認する習慣をつけましょう。

 

介護事業者の会計・税務

 

1.介護事業者の会計の特徴

介護事業者と一言で言っても、運営形態は株式会社であったり、社会福祉法人(特養等)であったり、サービス内容についても多岐にわたっております。今回は一般法人での運営を対象に基本的な内容を記載していきたいと思います。

 

◆介護事業の会計基準

一般法人が介護事業行う際の会計基準は「指定居宅サービス等の事業の人員、設備および運営に関する基準」(平成11年3月31日 厚生省令第三十七号、最終改正:平成28年2月5日厚生労働省令第14号)に定められています。

その第38条において「指定訪問介護事業者は、指定訪問介護事業所ごとに経理を区分するとともに、指定訪問介護の事業の会計とその他の事業の会計を区分しなければならない。」とされており、指定訪問介護事業者以外の指定介護事業者についても、この第38条が準用されています。

細かい話は置いておいて、要約すると『事業所ごとに、かつ、介護事業以外の事業も行っている場合は事業ごとに、別々の会計処理をしてね』という内容です。

つまり『部門別管理しましょうね!』という内容です。これは、業績管理の視点からも非常に重要です。

複数の介護事業を営んでいる場合や、介護事業以外の事業も同一法人で行っている場合は、「部門別管理」を徹底しましょう。

 

◆介護事業の資金繰り

介護事業は、売掛金の90%が国保連からの入金であり、貸倒れのリスクがほぼありません。その反面、売掛金の入金サイトは翌々月の月末ですので支払が先行します。すでにキャッシュがたまっている事業者においては、安定した資金繰りが見込まれますが、資金繰りが楽な業種というわけではありません。

特に新規開業のような場合には、運転資金を考慮して借入金調達を行う必要があるといえます。

目安となる必要運転資金はいくらくらいでしょうか。以下の計算式により目安数値を計算してみてください。

※必要運転資金 = 売掛金 + 棚卸資産 - 買掛金

会社の現預金残高が、常に、この必要運転資金額を上回っている状態が理想です。

また、利用者さまの要介護度に変更があった場合の再請求や月遅れ請求等々が資金ショートに影響するケースもありますので、国保連への請求については早めに業務フローを確立させましょう。

上記は、あくまで事業の運営上最低限必要な運転資金であり、現状で赤字である事業者さんや、多額の借入金返済があるような事業者さんは、上記運転資金だけでは足りないケールがあることから、その点ご留意ください。

 

◆事業所を自社にて所有する場合

介護事業所を自社にて建設する場合、多額の借入をして不動産を取得することとなります。

前回のコラムにて、業績改善の目安とする『必要利益の算定』には、借入金返済額と減価償却費がポイントになる旨記載しましたが、金融機関からの借入にて不動産を取得する場合は、借入の返済年数が資金繰りに与える影響は非常に大きなものとなります。自社の設備資金借入金の返済年数は業績安定のためのひとつのポイントと言えます。

 

2.介護事業者の税務

介護事業の税務に関する最大の特徴は『消費税』です。

消費税法においては、社会政策的な配慮から課税することが適当でないとして「介護保険法の規定に基づく居宅介護・施設介護・地域密着型介護サービス費の支給に係る居宅・施設・地域密着型サービス等」を非課税取引としております。

ただし、利用者様が、特別な食事、特別な居室など贅沢なサービスを希望した場合のように、介護保険対象外のサービスにていての対価には消費税がかかってきます。

自社が消費税の納税義務者であるのか否か、税務調査が入った際に指摘を受けない様、日々の記帳の中で適正に消費税の課非判断を行うことが重要です。

また、消費税の納税義務者ではないからといって、資金繰りや納税が楽だ!と簡単に言うことは出来ません。

介護保険適用サービスについては事業者に価格決定権がありません。従って売上の金額は基本的に一定です。しかしながら、昨年のように消費税の増税があった場合、経費の支払額は納税分だけ増えてしまいます。

介護報酬改定に関しては常に目を光らせておく必要がありますね。

2019年10月の消費税率2%増税対応時、介護報酬はプラスの0.39%でしたね。売上が0.39%増に対して、支払は2%増…

ますます業績管理が重要となってきました。

 

介護事業者の財務分析

 

以上、簡単に介護事業者の現状と、会計税務の注意点を記載しました。

数年前までは、今後の高齢者社会も考えると介護事業は経営が安定傾向にあるため、参入する事業者が増加傾向にありました。

しかしながら、事業者が増えたこともさることながら、介護報酬の改定や全国的な給与水準の向上等、今後は業績改善をしなければ生き残れない事業者さんが増えてくると思われます。

自社の財務分析を行い業績改善につなげるためには、『自社の健康診断が大事!』と以前のコラムに記載いたしました。

まずは、同業他社との比較が可能な、収支差率・給与費率から分析してみましょう。

決算書3期分をお手元にご用意ください。

 

◆収支差率

上記記載の通り、『税引前当期純利益』を『売上高』で割り返した数値です。

既に、介護サービス毎・事業所毎に部門別損益管理体制ができている事業者さんは、その部門毎に計算してみてください。

厚生労働省発表資料と比較していかがでしたか?

 

◆給与費率

給与費=『役員報酬』+『給料手当』+『賞与手当』+『雑給』

給与費を売上高で割り返してみましょう。厚生労働省発表資料と比較していかがでしたか?

部門別管理をされている事業者さんにおいては、各部門ごとに比較してみましょう。

 

◆利用者一人当たり売上高

自社の『売上高』を『年間の利用者延べ人数』で割り返してみましょう。

上記では割愛しましたが、利用者一人当たり売上高も厚生労働省より公表されています。

 

まずは、上記のような簡単な財務分析を行い、同業他社の数値と比較してみましょう。自社の良い点・悪い点が見えてくるはずです。

 

まとめ

今回は同業他社数値が比較的容易に入手可能な、介護事業について簡単な財務分析を行ってみました。

自社の財務分析や業績改善を行う場面にあっては、同業他社の数値を参考にすることが非常に重要ですね。他社と比べて自社の良い点を伸ばし、悪い点を改善すれば必ず業績は向上します。

弊社では、TKC経営指標(BAST)を基により細かな同業他社比較が可能です。また、様々な角度から財務分析を行うことにより会社の業績安定に向けたお手伝いをさせていただいております。

自社の業績改善を目指す際には一度弊社にご相談ください。

 

 

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